あひるの仔に天使の羽根を
「その頃の各務家は、須臾様がご子息である双子を虐待していましたな」
「双子……」
俺はその言葉を噛みしめ、久遠と芹霞を交互に見る。
芹霞は唇を噛みしめていて。
「各務の家の双子は、昔から…片方が異常に狂うのです。久遠様、そして刹那様の双子もそうだった」
狂ったのは――
"どっち"の"何"だ?
久遠の顔からは、よく判らない。
「あの時芹霞さんが見えられたのは、"約束の地(カナン)"に至る前の…天使達が元々住んでいた処、そこに家を構えていた各務家。
試験的な…疑似"約束の地(カナン)"でしたな」
芹霞は何も答えない。
「"お仕事"でいらっしゃったお姉様は、貴女を指差して苦笑していました。何でも2週間後に開催される"祭"。何処で耳にしたのか、その祭見たさに…お姉様のボストンバックに忍び込んでいたのだとか」
芹霞は興味が湧くと無鉄砲になる癖がある。
過去の俺もその道連れを喰らった思い出が多々ある。
芹霞なら、こっそりと忍んでいるなど…ありえそうだ。
「そして貴女は、お会いになられましたな、刹那様に」
"刹那"
俺はその響きに…思わず握りしめた拳に力を入れた。
「旭が湖に流した屍食教典儀、それを取ろうとして溺れられたのを…偶然刹那様に助けられた」
――湖に浮かぶ本をとろうとして溺れたのを、助けて貰った夢なんだけど。
芹霞の顔は――
「ええ。皆思い出してるわ、13年前…何が起きたのか」
悲痛さに翳っていて。
そこには俺を拒むような、毅然さもあったから。
だから俺は――
俺という存在全てを賭けて
俺の勝負が始まるのだと
そう思った。