あひるの仔に天使の羽根を
「師匠……すごく判りやすいんだね、実は」
由香ちゃんが月の頬をぷにぷにと突っつきながら、
僕だけにしか聞こえない程小さい声で言ってきた。
「見てて切なくなってくるよ、ボク。きゅうんとしたよ」
「……そう?」
切ない恋をしているから。
「どうして神崎は気づかないんだろうね」
「本当にね」
僕が苦笑した時、石が動く地響きがした。
見れば旭が人差し指と小指以外を折り畳んだ手を石に向けていて。
それにより石が動いたらしい。
そんなもので動くのか、この石は。
何かの仕掛けか?
「ヴーアの結印……」
櫂の声が漏れ聞こえる。
僕には初めて聞く言葉で。
しかし煌は知っていたらしく、険しい顔をこちらに見せた。
「石に描かれていた模様は、藤姫の、あの儀式の間の扉に描かれていたものと同じだ。
緋狭……紅皇でさえ、開けられずにいたあの扉は、俺の闇の力に反応し、あの結印で開いたんだ」
僕は目を細める。
「やはり――無関係ではない。
この地は、黒の書と……」
そんな時、大勢のざわめく声と音がした。