あひるの仔に天使の羽根を

・真実 櫂Side

 櫂Side
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芹霞のストレートが――

綺麗に…煌の頬に決まった。



「はは…

あははははは」



俺は目の前で繰り広げられた――

色と温度をがらりと変えた光景に


笑いを抑えることが出来なくて。



つられて――



「ぷぷ…ははははは」



玲も笑いだした。



「まさか…そんな方法で…

動物の…本能的解決?

まあ…煌なりに考えて、いや何も考えてないか」



玲を止血している桜も、目をくりくりさせて笑いを忍んでいるようで。



白皇は――固まっている。



恐怖が、13年前の邪痕さえ蘇らせるものなら。

同じ恐怖で禁じた記憶を取り戻したというのなら。


それ以降の…俺達との記憶も取り戻せるわけで。



「恐怖を…緋狭さんに結び付けるとは」



可笑しくて可笑しくて仕方が無い。



煌が芹霞の尻を叩いた時――

度肝を抜かされた俺達は、ただ唖然として。


白皇さえも呆然と立ち竦み。


思考回路が…固まった。

時間が…止まった。


煌の意外な行動は、白皇の奸計を上回ったはずで。


13年前に還って全てを忘却した芹霞に、大打撃を受けた俺達が。


一体どんな理由を持って、芹霞の尻を叩き出すなどと考える?



「痛えってッ!!! 本気で殺しに来るな、芹霞ッッ!!」


「信じられない、この変態ッッ!!!」



きっとそれは、煌だけしか出来ない。


煌だけしか考えつかない。


芹霞の怒りはまだ持続しているようだが、煌に容赦なく叩かれた尻が痛いのだろう。


やがて壁に手をつき、項垂れたまま動かなくなった。



その姿には、俺のよく知る芹霞の空気が漂っていて。


俺は――

煌の存在に感謝した。

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