あひるの仔に天使の羽根を
少女の鼻血で勉強会は一時中止となり。
少女はふと…白皇と呼ばれた老人を思い出す。
愛と永遠に狂ってしまった男。
彼を完全悪人だと思えない。
「ねえ…櫂。
あたしね…白皇が、双子を嫌っていたとは思えないの」
白皇は双子を利用したと言ってたけれど。
「彼らを生かせたかったと思うんだよね。
愛情が湧いていたんだと思う」
「擬態も…"真実"となったか」
それはどこまでも静かに。
「闇は、光がなければ存在が判らないように、そのまた逆も然り。二律背反している…対立するものは、意味合いは逆ながらも…互いになければならない存在。互いの存在によって自己存在を再認識しあう。
"約束の地(カナン)"はそれが顕著な土地だった。天使と悪魔、男と女、大人と子供、生者と死者、美しさと醜さ。過去と未来。正常と異常。真実と虚偽。それは永遠なる久遠と、須臾なる刹那の…正反対の関係で。
一方しか意義を認めずにいれば、必ずもう片方の逆襲をくらう。それが狂人として辿る結末。
真実なんて誰も判らない。矛盾だらけのこの世界、虚構も真実、真実もまた虚構。両者が等しく存在出来ねば…白皇のように、反対側ばかりを追い求める"鏡の世界"に封じられ、抜け出れなくなる。
鏡の迷宮の最果てに、そこから抜け出た自分の姿が…どうして"虚構"でないと言い切れる?
目で見えるものだけが真実ではない。
そう思えば白皇も、そして表面的なものに囚われた各務家もまた、"鏡"の犠牲者なんだろう」
そして笑う。
「だけど。そんな自分を信じてくれる他者がいる限り、擬態も真実となりえる。判らないなら、自分で創り出せばいい。
人は1人では生きられない。人が人として生きる為に。
だから求めるんだ。
狂おしく――必要としされる存在を」