あひるの仔に天使の羽根を


一瞬――


不覚にも、心臓が跳ねてしまった。



馬鹿なあたし。


意味が違うでしょう?


あり得ないでしょう?


永遠を望む幼馴染には、刹那に終わる色恋沙汰なんて必要ない。



――芹霞ちゃん大好き。


そう。


それは過去幾度とも無く繰り返されてきた言葉で。



「うん。あたしも好きだよ、櫂のこと。

昔から本当にだあい好き」



全ては定理のように、嘘偽りのない言葉で。


この言葉だけは、永遠だと信じられるから。



ああ、何だか嬉しいな。


またこんな会話を、櫂と出来るなんて。


戻れるのかな、あの頃に。


会えるのかな、あたしだけを必要としてくれた可愛い天使の櫂に。


だけど――



「意味が違うッ!!!」



櫂の一喝が、過去の余韻を切り裂いた。


目の前には、天使の櫂はもういなくて。


8年後の櫂は、昔のような穏やかな顔はしていない。


まるで別人のような美貌を惨苦に歪ませている。


それがあまりに辛そうで、思わずあたしが手を差し伸べようとした時、



「俺は――

ただの1人の男として

女のお前が好きなんだ」



それは震えた声で。



「あ、ありがとう?」



そんな性別を強調しなくても、櫂が男だっていうこと判っているのに。



「芹霞ッッ!!!!」



堪えられないといったように、櫂はあたしを強く抱き締めた。



「どうして――

言葉に出しても伝わらないんだよ……」


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