あひるの仔に天使の羽根を
 

しかも天蓋はボロボロで、切り裂かれた布が垂れ下がっている。


一体、ここの主はどう飾り付けたいんだ?


それから。


ぐるりと取り囲んだぬいぐるみ。


ベッドに居る俺をじっと見つめて、笑ってやがる。


さすがに桜の好みそうな不気味な黒グマはいないけど、


何でこんなガキあやすようなのが揃っているんだろう。


この部屋の主誰だよ。


赤ん坊か!?


動けない俺はもう、イライラがピークだ。


今まで動けなかった記憶なんて1つしかねえ。


8年前。


緋狭姉に全身の骨、砕かれて無理矢理入院させられた時以来だ。


あれも辛かった。


だけど隣に芹霞も居たから、気も紛れたというか。


病人VS怪我人で初っ端からよく喧嘩して、見舞いに来た緋狭姉にまたボコられて、早く治るもんも治らなかったけれど。


骨なら、意外と早く治るんだ、俺の身体は。


だけどこんな身体が重くてしんどいのは、初めてかも。


俺、櫂の護衛なのに。


こんな処で伸びてて、いいわけねえだろ。


桜は――どうなんだろう。


いつもの覇気はねえし、顔色も歩き方も変だったけれど、絶対あいつは弱音を吐かねえ奴だから。


裏でぶっ倒れても、人前では気丈に振舞う奴だ。


俺みたいに、情けねえ姿晒すこともねえ。


そういう点で、桜はクールな"男"だ。


女装なんかしているけれど、俺なんかよりよっぽど出来ている。


その桜が、もし女に惚れたら。


あいつは弱った姿を見せるんだろうか。


寝顔とか見せるんだろうか。



なあ桜。


俺がお前に芹霞の想い告げた時、

どうしてあんなに泣きそうな顔していたんだ?


何であんなに躍起になって、俺の想いを否定したんだ?



俺の中に過ぎる1つの予感。




だけどそれを問い質してはいけねえ。



そういう気がした。

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