あひるの仔に天使の羽根を
 
あたしの1つ1つの言葉に態度に、煌が過敏に反応している現実を思えば。


曖昧には出来ない。


邪険には出来ない。


煌が真剣な限り、あたしも真剣に対応しないといけない。


煌の想いを笑い飛ばすわけには行かない。


そうも思うけれど、如何せん、あたしには恋愛経験がないから。


じゃあどうすればいいんだろう?


告白されたあたしは何をすればいいんだろう?


真剣に"考える"だけでいいんだろうか?


だけど何を考えればいいんだろう?


世間一般的に求められている姿がよく判らない。


だけどこれだけは判る。


煌が真剣であると思えば思う程、今までワンコみたいに思っていた可愛い煌を、1人の"男"として意識し始めている自分。


一直線に向けられる褐色の瞳の先に、あたしが居るのがいやに恥ずかしくて。


煌なのに。


いつも喧嘩していた煌なのに。


2階へと続く階段上で、思わず盗み見てしまう野性味溢れた煌の横顔から、煌の熱い眼差しと熱い吐息が思い返されて。


煌が恋愛対象として、今までキスもしてきたのかと思えば、かあっと身体が熱くなってきてしまう。


今まで男子にモテたことなく男勝りで可愛げないあたしを、1人の女性として見てきてくれたことが嬉しくて。


告白された女子は、皆こういう風に突然相手を意識するものなんだろうか。


それともあたしが自意識過剰なんだろうか。


こんなあたしを好きになるなんて、本当に煌は変わっていると思う。


何でよりによってあたしなんだろう。


容姿が良い子も、性格が良い子も、煌がその気になるならば、どんな女でも選べる立場なのに。


多分あたしは。


煌が須臾よりもあたしを選んでくれたという事実に、煌を意識始めたんだと思う。


今のあたしにとって、ネックは須臾で。


須臾を介せば、あたしは相当な最悪女になっているはずだ。


そんな須臾を気に入った櫂をも突き放すなんて、8年前のあたしなら絶対考えられないこと。




< 665 / 1,396 >

この作品をシェア

pagetop