あひるの仔に天使の羽根を
 




「旭~ッ!!!」



月が抱きついたその顔は。


月と全く同じ顔の造作。


違いと言えば、その髪の長さで。


腰まである月の長髪に対し、この子供は短髪で。


厳密に言えば漂う雰囲気も違う。


月は無邪気であどけない……子供特有の幼さを感じるが、この子供は、年齢以上の嫌に落ち着いた、そして聡明そうな表情を浮かべている。


「ぼくは――旭(アサヒ)と言います。

ユエの"きょうだい"というものです」


兄妹……か。


「双子?」


芹霞が聞くと、旭はきょとんとした顔をした。


意味が判らないらしい。


背格好や顔の造りは同じだから、恐らく一卵性双生児だろう。

少なくとも他人ではない。


「お父さんやお母さんは?」


芹霞の質問に、2人の子供は、更にきょとんとした。


「お、大人の人は?」


「せりちゃん? "おとな"ってなあに……」


「"せり"はやめてッ!!!」


突然の芹霞の強い語気に、俺でさえ吃驚する。


場はしんとなりその眼差しは、荒い息を繰り返す芹霞に向けられる。


俺は思い出す。


芹霞ともっと仲良くなりたくて、自分だけ特別な呼び方をしたくて、"せりちゃん"と照れながら…それでも勇気を持ってそう呼んだ時、その時も芹霞に強く拒まれた。


いつもの芹霞からは想像つかないほど、冷淡に。


そして――


「あ、ご、ごめんね、月ちゃん。"せりかちゃん"って呼んで?」


昔と同じく――


我に返った芹霞は無理に笑顔を作り、怯えた月を宥めた。


あの頃の俺と同じように、優しく頭を撫でて。


ともかくも。


この家には大人が居らず、更には旭と月には親もいないらしい。

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