あひるの仔に天使の羽根を
「旭は、羽根が…翼があるのか?」
俺は訊いて見る。
すると旭は、背中を向けた。
「ぼくにはありません」
そこには焼き爛れた背中が見えた。
元々あったのか、それともなかったのか。
それを尋ねてはいけないような、不思議な威圧感がこの少年からは漂っている。
言葉を飲み込む俺達に、旭はこちらを向くとにっこり笑った。
月と同じ笑顔で。
「"てんし"っていうものみたいです。
前に此処に来た人がそう言っていました」
天使?
納得いかないその単語に、思わず目を細めた時、
「ねえねえ、旭~、やっぱり食べたい~」
月が旭の服を掴んで、首を傾げる。
「ぼく言ったよね、食べちゃいけないって」
「でも月、お腹減った~」
「駄目だって。大体、先刻そこのオレンジのヒトから、大好きな"赤"のを貰って大喜びだったじゃないか。そんなに食べたいなら、今ここでアレを返す?」
「いや~。あの赤いの、月の~ッ!!!」
月はその場で、ばたばたと地団駄を踏み始めた。
「……煌。月ちゃんに何をあげたの?」
玲の問いに、煌はぎくりとした顔をした。
「最初月ちゃんは、お前に攻撃的だったよね? お前、何の賄賂で買収したんだよ? 凄く気になっていたんだよね。お前に突然好意的になったのがさ」
「べ、べつに良いだろ? お、俺のおかげで結果的に櫂も芹霞も、この家で手当出来たんだから」
煌の目が不自然に泳ぐ。