あひるの仔に天使の羽根を
 

ああ――。


ようやくあたしは、玲くんがここまで頑なに"付き合う"ことに拘っていた理由が判った気がした。


玲くんは、このまま櫂が紫堂に戻らないという事態を避けたいんだ。


だから櫂を元に戻したいんだ。


少なくとも、色恋沙汰より紫堂を優先させる姿に。


櫂は須臾に操られているのだと彼は言った。


ふと思った。


元に戻れば、櫂はまたあたしの傍にいてくれるだろうか。


そんな甘い期待も生まれたけれど、それに関してだけは絶望的に思えた。


恋愛感情でこんな簡単に"永遠"が無碍にされるというのなら、あたしと櫂の間に確固たる"永遠"などありえなかったということ。


そう思えば、あたしは今櫂が見せているあの冷たさは、今まで櫂が口にしなかっただけの真情に思えて仕方が無かった。


櫂が戻っても。


あたしは櫂の傍には居られないだろう。


あたしは今、明瞭な現実を見たんだと思う。


今まであたしが信じていたモノは、夢幻だったんだ。


だけど。


皆が櫂に信じているモノは、真実だ。


櫂は紫堂には必要だ。


皆に櫂は必要で、櫂には皆が必要だ。


今までの風景から、あたしがいなくなっても何ら困らない。


櫂を元に戻す為に、どうして"付き合う"ことが必要なのか、玲くんは意味ありげに笑うだけで、教えてくれなかった。

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