TENDRE POISON ~優しい毒~
ロビーにはステンレス製の灰皿が設置されている。
待っている客はいなかった。
受付の従業員は暇そうにしている。
まこはタバコを取り出すと、
「水月、大丈夫か?」と聞いてきた。
僕はロビーのソファに背を深くもたれさせると、まこと同じようにタバコの箱を取り出した。
一本くわえて火をつける。
「……大丈夫」
煙と一緒にため息を吐きながら、僕は何とか答えた。
本当はちっとも大丈夫なんかじゃない。
頭はがんがんするし、視界は歪んでいる。
まっすぐ歩けるかどうか怪しいもんだ。
タバコも……ちっとも旨くない。
「なぁ、お前エマちゃんのことどう思う?」
ふいに聞かれ、僕はうつろな目でまこを見た。
「どうって、いい子だなって思うよ」
「それだけ?」
「他に何があるの?」
「彼女にしたいとか思わないわけ?」
何口めかのタバコを吸って、僕は乱暴に灰皿にタバコを押し付けた。