TENDRE POISON ~優しい毒~



―――


何時間経っただろう。


場は盛り上がっていた。


そして同じぐらい僕はアルコールで出来上がっていた。


まこと千夏さんの楽しそうな姿を見たくなかったから。


鬼頭のことを考えたくなかったから―――


だからひたすら酒を飲むことにした。


「水月くんは誰が好き?好きなアーティストの歌歌えたら歌うよ」


エマさんがはにかんだ笑顔でこちらを見てきた。


「僕は、は…」と言いかけて言葉を飲み込んだ。


浜崎あゆみは鬼頭と行ったときに歌ってもらう予定だ。


そんなこと、絶対にありえないのに……






頭がくらくらする。


一体何杯飲んだのだろう。


そう思ってたら、離れた席のまこがおもむろに立ち上がった。


「どうしたの?」


千夏さんが聞いてる。


「いや、ちょっとヤニ切れ。水月、付き合って?」


「タバコならここで吸えばいいじゃな~い」とアミさん。


彼女も少し酔っ払っているようだった。


「煙こもるし。女性陣の大切なコートや髪に匂いついたら悲しいし」


まこはウインクして女の子たちを見た。


「千夏の彼ってやさし~」


アミさんがはしゃいでいる。


僕は思わず耳を塞ぎたくなった。


「付き合うよ。僕も切れ掛かってた」




そんな会話を聞きたくなくて、僕は思わず立ち上がっていた。







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