TENDRE POISON ~優しい毒~



準備室の小部屋をノックすると、


「どうぞ」と中から控えめな神代の声が返ってきた。


「失礼します」


入ると、机で神代は一人コーヒーを飲んでた。傍らにはいつか見たノートパソコンがあった。


そう言えばマイピクチャに保健医とのツーショットが入ってたね。


あれは単なる思い出の一枚じゃなくて、神代にとって大切な大切な一枚だったんだね。



「お弁当、もって来ちゃった。ここで食べてい?」


そう聞くと、神代はちょっと笑顔を浮かべて頷いた。


あたしは神代の向かい側の席に落ち着く。




お弁当を広げていると、


「昨日の……」と神代のほうから切り出してきた。


あたしが顔を上げると、神代は切なげに眉を寄せてあたしのほうをじっと見ていた。





一瞬、ドキリとした。


そんな顔しないでよ。


あたしの口から洩れそうになった一言。


あたしはその一言を飲み込んだ。



「……言ったでしょ。誰にも言わないって」


「……うん。君を信用してないとかそんなことじゃないんだ……。ただ…」


神代が口ごもったので、あたしはその先を促した。


「ただ?」


「僕の気持ちは軽い気持ちなんかじゃない。真剣なんだ。真剣に彼を好きなんだ」




神代の目はまっすぐで淀みなく、間違ったことを言っているのに堂々としていて、あたしはそれが少し羨ましかった。



神代の中にはそれほど強い信念があることが…羨ましかった。



でもそれと同時に神代はあたしでもなく、乃亜姉でもない人を選んだことが寂しかった。


でも……


間違ってるなんて誰が言える?




別に誰が誰を好きでもかまわないじゃない。





むしろ間違ってるのは―――あたしの方……




< 171 / 494 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop