TENDRE POISON ~優しい毒~
エマさんの甘い香水が鼻の下をくぐる。
女性に殴られるなんて初めてだ。
いや、初めてじゃないか。昔はよく姉さんに叩かれたな。
そんなことを考えてると、
フワリと僕の額に優しい感触がした。
それはエマさんの唇の感触だった。
両頬を温かい手が包んでいる。
エマさんは唇を離すと、
「あなたはやさしいひと。
あたしとのことに背を向けないで、ちゃんと事実を受け入れてくれた。
自分の気持ちに正直で、素直なひと。
元彼に似てるって言ったけど全然違う。
でも、それと同時に残酷なひと」
僕の目をまっすぐに見返してきたその表情はつるりと無表情だった。