TENDRE POISON ~優しい毒~

テストを作っていると、すっかり遅くなってしまった。


もう日が暮れてあたりは真っ暗だ。


こんな時間にどうかな?って思ったけど僕は楠 乃亜の病室を訪れた。


楠は相変わらずで病態には変わりがない。


僕は最近学校で起きたことや、自分のことを眠ったままの楠に語りかける。


もちろん返事なんてないのに。


でも不思議だな。


このまま楠が眠ったまま一生を終える気が、僕にはどうしても思えないんだ。


明日か、明後日か……一年後か十年後か。


まだまだ分からないけど、いつか元気な楠がひょっこり僕の前に顔を出すんじゃないか、そんな気がしてならない。




お見舞いを終えて、エスカレーターで1階ロビーまで行くと、ふいに嗅ぎなれた香りがして僕はぱっと顔をあげた。


この香り……



慌てて視線を巡らせていると、


昇りの2階エスカレーターの頂上に





鬼頭がいた。



鬼頭はこちらを見下ろして、驚いたように目を開いている。




何で?



何で鬼頭がこんなところにいる?





見間違いだろうか。


僕が目を擦って再びエスカレーターに視線を送ると、鬼頭の姿は消えていた。




見間違い……?




何でかな、このとき僕をとりまく運命が大きく変わることを予兆しているように思えたんだ。



夕方見たあのまこと、楠 明良と、梶田の視線を思い出す。





嫌な予感がする。









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