TENDRE POISON ~優しい毒~

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いつもより1時間以上も早くマンションを出て楠家に向かう。


雪は降り止むかと思いきや、一層濃く降り積もる。


思った以上に寒い。


制服を着てるときはコートを着ないから、余計冷える。あたしはマフラーを掛けなおした。


楠家の前で傘を差しながらちょっと待っていると、中から


「明良ー、鉛筆持った?受験票は?」とおなじみの台詞が聞こえてきた。


「わかってるって。大丈夫だからっ」


ちょっと怒鳴る声が聞こえて明良兄が出てきた。


明良兄もコートは着ずにマフラーだけを首に巻いてる。


「そんなかっこだと風邪引くよ」


あたしが声を掛けると驚いたように明良兄が目を開いた。


「雅。お前来たんなら声掛けてくれも……そんな所で突っ立ってっと風邪ひくぞ」


明良兄はあたしの頭に手を乗せると、乱暴に髪を撫でた。


もぅ…せっかくセットした髪もぐしゃぐしゃだよ。




「明良兄、今日受験でしょ?がんばってって一言言いに来ただけ」


あたしはくすぐったそうに笑うと、明良兄を見上げた。


あれ?明良兄ってこんなに身長高かったっけ?


保健医を似たり寄ったりな背だ。



「おう。サンキュな」


はにかむように笑う。


こんな笑い方をする人だっけ?


明良兄のちょっと立てた髪に白い雪がふわりと舞い降りて、受験をするために黒染めした髪に白い雪が一層映えている。


何だか……


綺麗。




違う人を見てるみたい……。ううん、違うか。



あたしがこの1年間、明良兄をちゃんと見てなかったんだ。







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