僕の死に方
「ナイフを突きつけた時、怯える彼らの顔を見て、思ったんだ。許せない、って。だって彼らは、今まで僕に散々酷いことをしてきたのに、いざ自分の身に危険が及びそうになると、簡単にうろたえる。やっぱり死ぬべきなのは、彼らなのかな、って」
 だけど、藤見正信は彼らを殺そうとしなかった。
「感情のままナイフを振り上げた時、僕は怖くなって目を閉じちゃったんだ。人の命を奪うなんて、それが今まで僕を苛めていた相手だとしても、怖かったんだ。そう、怖かった」
 彼の体は、少しだけ震えていた。
「僕は、人の命を奪うことを怖がった。彼らは、自分の命を奪われると思って怯えた。ねえ、堂島くん、僕と彼らの間に、そんなに違いはあるかな? 同じだったんじゃないかな」
 小さく深呼吸して、藤見正信は目を細める。
「そう思うと、僕はもう、彼らを殺すことなんて出来なくなった。目を開けた時……堂島くんがいたのには本当に驚いたけど、もし目の前にいたのが、憎いと思っていた彼らでも、やっぱり殺せなかったと思う」
 藤見正信は、今ではよく見るようになった笑顔を、僕に向けた。
「本当にありがとう。堂島くんが僕に時間をくれたおかげで、僕は変わることができたんだ」

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