凶漢−デスペラード

6…真の敵

それから丸一日、竜治は意識を失っていた。

自分の手が、柔らかくて温もりのあるものに包まれていると感じ、目が醒めた。

柔らかくて温かいものの正体が、久美子の手だと気付いた時、どうして自分の横に久美子が居るのだろうと、不思議に思った。

意識がはっきりし始めて来ると、痛みが襲って来た。

久美子が、

「気が付いたのね…」

と言って、泣いてるような笑っているような変な顔をした。

「ここは?」

「神泉のマンション。」

「神泉?」

「義兄の所とは別の部屋なの。」

「久美子さんが借りてる部屋?」

「ううん、義兄の愛人の部屋…ここなら知ってる人間も少ないからって……」

竜治は、自分の身に起きた事を思い出そうとした。

そして、自分が殺されそうになったんだと思うと、急に冷たい汗がどっと流れて来た。

隣の部屋から見知らぬ若い男が入って来た。

久美子がその男に、竜治の意識が戻った事を澤村に伝えるようにと言った。

再び竜治は眠りについた。

次に眼が覚めた時、部屋にはくすんだ顔の医者と、澤村にヤンが居た。

「まだ熱が高いようだが、とにかく安静にしていれば大丈夫です。傷口の消毒はまめにするように。又何かあったら連絡して下さい。」

そう言って医者は帰った。

「運のいい野郎だな。弾丸は二発共抜けてる。頭の方は掠った程度らしいから大丈夫だ。しかし、お前を狙った奴も腕が悪いなぁ、あの距離で六発だぞ、六発。当たったのは二発で、それも仕留め損なっちまいやがって。尤も、チャカなんて物はそう簡単には当たるもんじゃねえけどな。」

「澤村さん、私の所の者ならば100%間違いない仕事をしますよ。」

「ヤンさん、その若い者に俺を狙わせないでくれよ。」

澤村とヤンが笑った。

釣られて竜治も笑おうとしたが、肋骨に響いた。

部屋に久美子はいないかと見回したが、姿は見えなかった。

竜治を襲ったグループは、新宿から流れて来た中国人達で、頭分が荘という。

あの時、ヤンの手下達が襲った男達を追い掛けたが、捕まえる事は出来ず、今も捜し回っているとの事だった。
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