凶漢−デスペラード

2…最初のトラブル

「何事ですか?」

竜治の問い掛けに、若い男の一人が、威嚇するような態度で睨み付けて来た。

ヤクザ者に凄まられる覚えは無い。
寧ろ澤村の息が直接掛かっている店だから、凄むどころか揉み手で擦り寄って来る者の方が多い。

「おう、ワレがここの責任者か?」

「ええそうですが何か?」

「こら、何がじゃねえだろうが!」

「まあ、声を荒げたからって話しがまとまるものやあらへんやから、こうしてワシらが出向いておるやがな。」

理由はよく判らないが、何らかのトラブルに巻き込まれた事は間違い無い。

「ワシらは尚武会のもんや。」

兄貴格の男が口にした尚武会とは、大阪を本拠にした広域暴力団だ。
近年、関東進出が著しく、地元組織との衝突が絶えない。

親栄会は銀座に本部を置く関東の組織である。
関西の不景気に組の収入源を他に求めだした尚武会の下部組織が、東京の盛り場を黙って眺めている訳が無い。
渋谷にも、その下部組織である金田組が事務所を出していたという話しは、竜治も耳にしていた。

「私の所が親栄会の澤村がやっている店だと承知の上で乗り込んで来てるんですね?」

「乗り込んでるやと?ワレ随分といっぱしの口きくやないかい!そんなもん承知の上で来とったらどうするゆうや!おう?ワレの答え方一つで話しはいくらでもややこしくしたるで!」

若い男が凄む。

「承知の上で来られてるんでしたら、それで構いません。ならば、どういった件でいらしたのか、先ずはそれから伺いましょうか。」

竜治の落ち着き払った態度に、若い男は、余計に苛立ちを表した。

「ワシは金田次郎いうもんで、渋谷に事務所を構えてるんやが、昔からの付き合いのある店もいくつかありましてな、こういう女商売をやっている、言わばこちらの商売敵になるんやが、そこの社長はんから相談を受けて出張って来たちゅうことや。」
金田と名乗った男は、声を荒げるでもなく、目だけを凄ませながら竜治に話して来た。

「おたくんとこで二、三日前から働いとるユキいゆ女がおりまっしゃろ。」

確か、先に働いていた女の友人で、その女の紹介で働き始めた子だ。

「その娘が何か?」

「早い話し、引き抜きでんがな。」
< 28 / 169 >

この作品をシェア

pagetop