凶漢−デスペラード

3…以外な敵

「お嬢ちゃん、この人に惚れるんはええけど、付いて行くだけでも難儀でっせ。」

「アタシ、大丈夫!ずっと付いていけるもん!」

「澤村はんがこの店を田代とかいう奴ではなく、あんたはんにした理由が判りましたわ…ほな。」

金田は若い男を従えて出て行った。

ソファに崩れ落ちるかのように座り込むと、ジュリが心配そうに顔を覗き込んだ。

「大丈夫?」

「今んなって痛くなりやがった…」

奥の部屋から他の女達も出て来た。

今になって緊張の糸が解れた途端、恐怖感のようなものが湧いて来た。
全身に汗が吹き出している。

ジュリが冷やしたタオルを持って来た。

顔の中心部がズキズキする。

血は止まったが、腫れて来たようだ。

出る杭は打たれるか……

「竜治さんすいませんでした…」

まだ青白い顔をしてる上原が頭を下げながら、今回の件は、自分の落ち度では無いんです…的な言い訳ばかりを口にした。

「……そうなんだろうが、その娘の前の店に連絡を入れて置けば、今回みたいな目に遇わずに済んだ筈だ。」

神妙そうに上原は頷いた。

「でも、おかしいんですよね…」

「どう、おかしいんだ。」

「…はい…その娘がいた店って、確かに金田組がケツ持ちなんですが、元々、そこの社長は親栄会とも浅くない付き合いがあって、特に澤村さんなんかを敵に回すような真似をするとは思え無いんですよ。」

「…詳しく話してみろ。」

「その店長は昔からポン中で、そっちの関係で深いですし、女の子を入れてるスカウト自体が澤村さんとこの林さんがやってるとこですし、普段だってよく田代さんなんかと飲み歩いてる仲ですからね…。」

「社長の名前は?」

「三矢……」

その名字を聞いて、竜治は直ぐに顔が浮かんだ。
以前、エニグマで物を売った事があった。
それも、普通の客の時と違って、田代から急に電話が入り、急いで持って行ってくれと言われた。
客はVIP席で何人も女を侍らせ、竜治の顔を見るなり、

「田代のデブに宜しくって言っとけ。」

記憶が鮮明に浮かんで来た。
田代の囲っている女が働いていた店の名が……

ラブ&ハート…

三矢が社長だ…

魚の小骨が喉に引っ掛かったような違和感を抱いた……
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