凶漢−デスペラード

6…疑惑

ハチ公前のビルの地下にあるアテネという古い喫茶店に出向くと、澤村の他に、竜治が初めて見る顔が二人一緒だった。

「遅くなりました。」

「おう。まあ、座りな。」

「澤村さん、関西の方に行ってたんじゃ?」

「東名ぶっ飛ばしてさっき戻って来たとこさ。こいつの運転のお陰で寿命が縮まったよ。」

こいつと呼ばれた男が、竜治に軽く会釈した。

見たところ、竜治より少し年上かも知れない。

ブランド物の高級スーツが似合っている。
ヤクザという感じではなく、若手IT実業家といった印象を与える。

「神崎には初めて紹介するが、河田だ。金庫番みたいなもんだ。」

「河田です。話しには何時も聞いています。」

「神崎です……」

「お前が稼いでくれた金をこいつは更に何倍にもしてくれる遣り手だ。これからは頻繁に顔を会わす事になるはずだ。それと、順番が逆になっちまったが、こちらが塚本のオジキだ。」

「いいよ、いいよ。これからは若いもんの時代なんだから、俺みたいなロートルは飾りもんでいいのさ。」

「飾りもんが時に俺達を助けてくれる事が多いんです。」

「あんまりおだてるなよ。」

飾りもんと自分で言っている塚本は、以前に一、二度顔だけは見知っていた。

狡猾そうな目付きをしていて、竜治には好きになれないタイプの相手だった。

注文したアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れ、ストローで掻き混ぜてると、

「田代とは、ここんとこ会ってたのか?」

いきなり心臓を素手で掴まれたような気分になった。

「いえ、店を任されてからは一度も……」

「電話もか?」

「はい……」

「あの馬鹿がホテルでパクられたんだ。」

一気に話すではなく、まるで、勿体を付けるかのように澤村は話し始めた。

「連絡が入った後、知り合いのデコ助(刑事)に状況を聞いてみたんだ。」

「………」

「パクられた状況がちょっとばかし妙なんだ。サツの連中がホテルに踏み込んだ時、田代は何者かにフクロにされてぶっ倒れていた。喉が潰され、頭にもヒビが入ってるらしい。念が入った事にタマの方も蹴り潰されていた。下手すると一生方チンになっちまうらしい…で、問題はだ、サツが踏み込んだきっかけはチンコロだ……」
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