凶漢−デスペラード
河田は二階の様子を窺い、特に変わった所が無いかを注意深く観察していた。

更に、二階の全ての部屋の電気メーターを確認し、ドアスコープを扉の横から確認して行った。

全部の部屋を確認し終わると、201号と書かれた部屋の鍵を開け、中に入った。

部屋に入り、河田がドアの鍵を掛けるところを見ていたら、中から施錠出来る鍵が全部で三つあった。

三つとも掛け、チェーンロックをし、漸く一息ついたというような顔で、河田が竜治を見た。

殺風景な部屋だった。

六畳程のフローリングと、八畳程のカーペット敷の部屋が二間続きで、小さな台所がフローリングの部屋に付いていた。

冷蔵庫と安物のソファとテーブルがあり、他は何も無かった。

河田が冷蔵庫を開け、缶コーヒーを二本取り出し、一本を竜治に渡した。

隣の部屋からバックを一つ持って来た。

黒色の布製で、肩掛けのベルトが付いている、アタッシュタイプのバックだ。

ありふれた、何処にでもあるそのバックを開け、中から二つの塊をテーブルの上に出した。

一つは古新聞に包まれ、更に念入りにビニールで包まれていた。

中身は覚醒剤だった。

竜治がそれ迄見た事が無い程の量だった。
一袋が竜治の掌位あり、それが十袋あった。

もう一つの包みは、茶色の油紙に包まれていた。

竜治には、それが何であるか、大体想像出来た。

「今夜十二時、多摩川の旧巨人軍二軍グランド沿いの土手で、この品物を渡して欲しい。受け取る代金は1000万。」

河田はそう言って、もう一つの包みを竜治の方へ押しやり、

「念の為、これを持って行け。うちとは今回初めての取引だから、用心に越した事はない。」

「相手をどうやって見分けますか?」

「先方は車でやって来る。ライトを三回点滅させたら取引相手だから、あんたの方も同じように三回点滅させてくれ。余計な行動は一切するな。誤解を招くような行動を取って取引がパアになるならまだしも、自分の命を落とす事に成り兼ねないからな。」

「自分が乗る車は?」

「このマンションの駐車場にグレーのシーマがある。」

河田がキーを投げた。
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