カベの向こうの女の子
早く何か言わなきゃ…
今度は焦って言葉を探す
さっきまで暖かいと思っていたのに、今は寒気さえする
視界の隅の春菜の表情が曇っていく
「波くん…」
俺はそう言われて、ようやく春菜を見た
不信感というより、春菜は俺の否定の言葉を求めてるように見えた
その時、頭で千秋の低い声が響いた
『嘘だけはつかないほうがいいです』
俺はようやく声を振り絞った
「ごめん―」
無意識に漏らしたその声に、俺は自分で驚いた
春菜も目を丸くしていた
本当に無意識だった
嘘をついて春菜を悲しませたくないとか、そういう高尚なものでもない
何がベストの言葉なのか、はぐらかしたらいいのか、訳がわからなくなった
それで、言ってしまった
認めたようなものだった
春菜の瞳孔が震えている
春菜のかすれた声が、耳に響いた
「嘘、だったの…?」