カベの向こうの女の子


「…、波…、」



真っ暗闇の中で呼ぶ声がする



ずっと目を開けなければ、その声はなくなると思って目を閉じていた



だけど、何度も何度も呼ばれる




夢から現実に引き戻される



「起きました?」



千秋の顔が見えた



真っ暗から景色が突然現れて、色がついた



「千秋…」



「もう夜っすよ。適当に部屋片しときました」




「ああ、夜か」




頭が上手く働かない




いつ寝た?


夜はずっと起きてたから



ああ、朝だ


10時すぎ



「今、何時?」



「8時っす」



そういえば光は、電気のやけに白い光だけだ



カーテンから漏れるあの太陽の光がない



俺は目だけで窓のほうを見た



外は真っ暗だ




「俺ら、今日はとりあえず帰るから」



亮太の姿は見えないけど、そう声が聞こえた



「うん、わかった」




なんか頭がズキズキ痛い




変な時間に寝たからかもしれない



ぼーっとしていると、玄関のドアが開く音がした




「波、じゃあな」




「おつかれーっす」




そのあと閉まる音が聞こえた



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