堕ちていく二人


桂司は玲子がドアを開けたのに気付くことはなかった。

玲子はきつく握りしめた包丁を振り上げ、桂司の身体をめった刺しにした。

鮮血がバスル−ム一面に飛び散り、桂司はその場に崩れ落ちるように倒れた。

桂司の身体からとめどなく流れ出る血液が、シャワーヘッドから出てくるお湯に流されて排水口へと消えていった。

玲子はその真っ赤な血液を、しばらくぼんやりと見つめていた。

裕也はまだ泣き続けていた。

その声が玲子の耳に届き、玲子ははっと我に返った。

桂司は間もなく出血多量のショックで息を引き取っていた。

玲子は桂司を殺してしまったことに後悔と罪悪感は全くなかった。

人を殺してしまったのに冷静でいられる自分自身に驚いていた。

ただ、裕也にはこの惨状を絶対に見せてはいけないと思った。

裕也は泣き疲れてその場にしゃがみ込んでいた。

玲子は返り血を浴びた服を脱ぎ捨て、死んでいる桂司の横で熱いシャワーを浴びた。

玲子は流れ出る熱いお湯で自分の身体に着いた血液と、過去の全てを洗い流してしまいたいと思った。


< 35 / 42 >

この作品をシェア

pagetop