堕ちていく二人


『生きる事に疲れてしまった。遠くへ行くので探さないで欲しい』

そのメールを受け取った同僚が上司に報告し、直ぐに自宅へ電話がかかってきた。

「××銀行の山本と申しますが、ご主人はいらっしゃいますか?」

「いいえ、今朝出張だと言って旅行バッグを持って、いつもより早く家を出ましたが…」

玲子は平静を装って冷静に受け答えをした。

「そうですか、分かりました」

「何かありましたか?」

「いえ、ご主人から連絡がありましたら、こちらまでお知らせ下さい」

「はい、分かりました。失礼いたします」

桂司の上司は異変を察知し、直ぐに警察へ連絡をした。


それから一週間後、朝早く二人の刑事がマンションを訪れ、玲子に任意同行を求めた。

玲子はその求めに素直に応じた。

玄関を見知らぬ男二人に挟まれるように母親が出ようとすると、裕也が

「お母さん、何処へ行くの?」

不安げに言った。

振り返った玲子は

「裕也心配しないで。お母さん直ぐに帰って来るから…」

笑顔で声をかけた。

裕也は婦人警官に付き添われ一旦警察が預かり、その後連絡を受けた大阪の真紀が引き取りに来た。


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