私の名前、知らないでしょ?
五蘊皆苦

まおのこと

まおについて知ってることは実はそう多くない。彼女は県職員の父と専業主婦の母の両親の間に二人姉妹の次女として生まれた。
父は厳格な性格で、家族は逆らうことは許されなかった。母はいつもそんな夫の顔色をうかがいながら、二人の娘に厳しくしつけようとした。
中学に入ると、そんな厳格な家庭に反発するようになった。不良グループとの交際が始まり、ろくに家に帰らないようになった。
まおにはこの生家はとにかく「ウザ」かった。中学を卒業すると直ぐに家出し、県西部の地方都市のパブに年齢を偽って潜り込んだ。店長に見染められ、同棲を始める。この同棲生活でまおは料理を始め、家事全般を覚えたという。
夜の仕事をまおは彼女なりに懸命に勤めた。しかし、いろいろな「大人」たちと関わるなかで、世間の無常を感じるようになっていた。女がいくら頑張っても大して稼げないのだ、と。
家出から2年、彼女は実家に戻った。その2年のうちに家族の雰囲気が変わっていたという。彼女の言葉を借りるとこうだ。
「前は食事中なんか全く喋らなかったのに、あたしが帰ってみたら和気あいあいと食事するようになってたの。変な家族。」
この子はユング派のいうピエロの立場だったのかな?とふと俺は思った。
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