天狗様は俺様です!
 理由はすぐに分かった。


 カイが私の体をしっかりと支え、抱きしめているから……。


 落ちないように、大切に。



 それが分かって、私はカイの首に更にしがみついた。


 何だろうこの気持ち。

 泣きたくなるような、苦しいような。

 ……胸の奥が熱い。


 でも、その気持ちに名前をつけてしまったら後戻り出来ないような気がした。

 だから、ぐっと飲み込んだ……。




 カイが降り立ったのは初めて会ったあの池だった。

 最近来ることは無かったけれど、紅葉に囲まれた池は以前とはまた違った美しさを持っている。

 赤や黄色、橙が織り成す風景が水面に映りこむ。


 昨日の雨で濁っていてもおかしくはないのに、不思議なことに池の水は澄み渡っていた。



 その風景に囲まれ、私はカイによって一本の木に背を押し付けられる。


「ここなら、いいだろ?」

 私の顔を覗き込み、カイは笑う。

 私はうんと頷きかけ、川内くんのことを思い出した。




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