鬼ごっこ~歪む恋心の行く末~【fin】
ある日のこと。
私は困っていた。
「…どうしよう。」
放課後の昇降口から見上げる
鉛色の空からは、
大粒の雨が降っていた。
今日、
うっかり傘を忘れてしまった私は
帰れずに困っていた。
「今日は塾なのに…。」
早くしないと遅刻してしまうだろう。
このまま走って
ずぶぬれになって帰ろうか?
それなら遅刻するよりもマシだし、
着替えればいいだろう。
そう思って、
足を一歩踏み出そうとしたその瞬間、
「待って。」
不意に私の手首を掴む手。
振り返ると、
そこにいるのはあの頃の君。
「俺の傘、使いなよ。」
まるで私の事情を
すべて知っているかのような
そんな口調で言う。
「え、いいの?」
「うん。もう一つあるし。」
そう言って君は笑う。
私はお言葉に甘えて傘を借りて帰った。