恋愛温度、上昇中!

逃げ出したい、と思っては何であたしが逃げ出すんだ、と反抗する。
その繰り返しに疲れて、見上げれば、オレンジ色の照明に溶けこまない関谷の黒髪が目について、あたしの視線に気付いたように、その夜色の瞳とぶつかる。


「おい、」


関谷の薄い唇が開く。


「なに」


掠れた声がリアルで、離したい目線が縛られたように動かなくて、面倒くさそうな関谷の仕草ひとつひとつにあたしは気をとられている。






「……んな顔すんな。阿呆」




関谷が苦笑してそんな事言うから、また訳の分からない熱が上がる。無意識なのか、確信犯なのか、興味があるのか、ないのか。



馬鹿やら、阿呆やら、あたしがどんな顔をしたってあんたには関係ないじゃないか、っていう軽口さえ叩けない。

息を呑んで、ただ指先から痺れるような感覚を落ち着かせようと手を握る。



ああ、もう嫌だ、



感情の名前を確信したのは今なのか、それとも出会ったあの時からなのか。


最悪、だ。



こんな感情、消えてしまえ、と願う。



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