恋愛温度、上昇中!
***


「高見ちゃん、あなた恋してる?」


目の前のタイトな形のブランドスーツを着こなす年齢不詳の妖しい美貌の女性は、その言葉よりもずっと真剣な表情で私を見つめた。

「…恋、ですか」

我ながら低い声。呟いただけなのに、地に落ちたように響いた気がする。

「そうよ!恋!」

口元を上げて当たり前だと言わんばかりにキラキラした瞳を真っ直ぐ向けられて、顔のどこかの筋肉がピクリと動いた。だって、それ、なんの拷問。

「…社長」
「なぁに?」

ニッコリと邪気の無い笑みを惜しげもなく振り撒いて非常にプライベートな質問をする美女は、そう、社長だ。

「してる訳ないでしょうが」

愛想というエッセンスの一ミリもない、通常通りの無表情で投げやりに返しても許されるのは社長の柔軟な性格のお陰だろう。
この会社に勤めて5年目。今年、28を迎える。
思えば、入社当時のスタートラインから私に可愛さはなかった。今より少し短い黒髪。縁のない実用性だけを求められた眼鏡。化粧っ気のない顔。
同期で入った子さえ、どこか垢抜けた雰囲気を持っていたというのに。
勿論、私も野暮ったい格好なんかしてない。キチッと適度なスーツを着ているけれど、今でも変わらず縁のない眼鏡に、巻き上げられただけの髪型。化粧は至ってナチュラル。地味だと言われようと、いかにもと言われようとこれが私の戦闘スタイルだ。けれど、理解ある社長はそこを気にしている訳ではないらしい。

「仕事が出来るだけじゃ駄目なのよ」

社長は相変わらず艶やかに微笑んだまま、だけど言葉選びに迷いはなく言い切る。
この人は美人だ。甘い声も年齢の分からない崩れないスタイルも。何年も変わらない。

「男を作りなさい」


ビシッと決めたその声に、社長、と私が溜め息混じりの返事を返す間さえも許さず、
「とびきりいい男をね!!」

一代でこのランジェリー専門の会社を立ち上げた女社長は誰もが見惚れる極上の笑みを浮かべた。



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