少年少女リアル
 ばち、と鈍い音が鳴った。
ドラマや小説みたいに、快音などではない。
これは、雨のせいじゃない。これが人の肌を叩いた時のリアルな音だ。

音と手の痛みだけが、現実的だった。


自分が今した事を理解するまでに数秒かかった。

それから、理解すると、すぐ頭の中が真っ白になった。
真っ白になって、だんだん焼けていくように黒く塗り潰されて、何が何だか分からなくなって、また理解しようとする。
正しく理解しようとするけれど、導き出す答えはいつも同じで、また……と、この繰り返しだ。
一瞬のうちに、物凄いスピードで何十回それが繰り返されたか。


最悪。

この二文字が頭に浮かんだ。


最悪だ。最低、いや、もうこれ以下はない。本当の、底まで来てしまった。
男としても、人間としても、最低、最悪だ。僕は。


「……もう、やめろよ」

落ち着き払った声だった。いや、実際、有り得ないほど、自分自身の人格を疑うほど、心の中は静かだった。

「これ以上ややこしくするなよ……。しちゃいけないんだ」

崩れるように、語尾が弱い声へと変わった。

彼女は顔を逸らしたまま、頭を上げない。静かに涙が流れていくのだけが見える。

「ただ衝動で恋愛してただけなんだよ」

彼女は恨めしさの籠った眼を僕へ向けた。

「……狡いよ。一人で解決しないでよ……」

電灯に照らされて、涙の通り道が光って見えた。

左頬が赤くなっている。
締め付けられるような思いがした。視界に入れるのが怖くなって、僕は目を頬から地面へと逸らした。

「ごめん」

もう一度、ごめんと告げると、その場から逃げるように土砂降りの雨に飛び込んだ。
雨は僕を批判するように突き刺して、走っても走っても、追い掛けてきた。
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