少年少女リアル
 役割分担など、あってないようなもので。
数人は衣裳生地の買い出しへ行かされ、しばらくして、また数人が。悲しい事に、来たところで男など雑用しか任されないのだ。

僕は割り箸を桶の中でゆらゆらと泳がせていた。
箸の先で、紐が踊る。まるで黒い髪が水に揺れているのを眺めているみたいだ。

ネクタイは費用が嵩む上に、安っぽく見えるものしか買えそうにないとの理由で、棒ネクタイを採用するらしい。
元橋さんに言わせてみれば「雰囲気がそれっぽく見えたら良い」のだそうだ。


黒水に自分の顔が映る。我ながら、死んだ魚のような目をしている。
薬品の匂いが鼻に充満していて、嗅覚がおかしい。もし今焼きそばを食べたとしても、薬品味になりそうだ。

……薬品味って何だ。言葉では形容しにくい。


染め終えた棒ネクタイを水から揚げる。割り箸の先までもが、どっぷりと墨色に染まっていた。

ネクタイの先端からぽたぽた落ちていく黒い雫は何だか病的だ。
水滴が垂れなくなるまで待つと、窓際の粗略な洗濯竿に引っ掛ける。この動作を行うのも、もう飽きてきた。
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