失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】
そんな…嘘だ
ありえない
そんな…
僕は一瞬言われたことが
ただの悪い冗談に思えた
あれが安定剤…?
「うそ…だよ…」
喘ぎながら否定する僕の耳元で
彼は愛撫のように囁いた
「嘘じゃない…君の愛する人が君の
身体に刻んだ快楽は君たちだけの
ものじゃないってことだ…彼の中に
棲んでる悪魔が君の中にも居る…
良くわかっただろう?」
彼が耳の中に吐息を吹き込む
「違う!そんなんじゃな…」
だけど言葉が…最後まで継げない
「はああっ!」
身体が止まらない
彼は吐息と一緒に声で耳をなぶる
「ほら…もうダメじゃないか…
君の身体は闇に侵されてるんだ
小さい頃から彼に教えこまれたんだ
ろう?…当たり前じゃないか…
彼と同じ身体をしてるのは」
「違う…!僕は…そんなんじゃ…
あああぁ…!」
なぜ…?
一度も彼に抱かれて感じたことなど
なかったのに
違う…あれは強いドラッグ
きっと違法な…
決して安定剤なんかじゃない
あの男はまたウソをついて
僕を陥れるために…
卑怯な手を使って
「ああっ…あうっ!」
彼が耳朶に舌を這わせる
騙されるな…違うんだ
「ちょっとした実験…成功ですね
前もって申し上げていた通り…彼は
幼い頃から猥褻な行為を受けていた
そんな身体をコントロールし続けて
いけるのかどうか…プラシーボを
用いた簡単なトリックです」