失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



「うああああああああぁ!」




母の顔を見た途端

僕は目を見開いて叫んでいた

精神の崩壊していく感覚

悪夢のフラッシュバック

すべてを母に知られてしまう恐怖

隠さなくては破滅してしまう恐怖



それは母の精神のため

母の自殺未遂するような脆さのため

兄のため

兄と僕のため

父の平和のため







日常というマシンガンで

全身に銃弾が撃ち込まれる感覚

自分でも気づかない

精神の異常と崩壊

母が僕を抱き締めて押さえている

僕が兄にしたように

「どうしたの?!…何があったの!」

母の問いただす質問

「うあああああああ!」

訊く…な!

それを…訊…くな!

(話しちゃ…いけない…よ)

医師が飛んでくる

「鎮静剤…入れますから」

殺して欲し…い

誰か僕の口を封じろ…

「何があったんですか?!」

母が医師に訊いている

「駅のホームで倒れて頭を打った

ようです…今息子さんは意識が混濁

していて…私たちにも状況はそれ

しかわからない…息子さんの意識が

戻れば詳しい状況も解ると思われ

ますが…お母さんは心当たりは

ありますか?」

「息子はパニックの発作があって…

だいぶ起きなくなってはいたのです

が…ひどいときは過呼吸で倒れたり

します…でもこんな状態は私も

見たことありません」

「頭を打っていますのでね…精密に

検査しないと万が一ということは

起こりえるんで…脳外科の場合…」

「入院ですか?」

「この意識状態では入院は必要だと

思います…内出血は危険です」

医師は付け加えた

「息子さんは人とぶつかったり

つまづいて転んだのではないらしい

のです…不意に倒れたのだと…

ですから…なんで倒れたのかも

調べなければならないですね」

鎮静剤がそこで一気に意識を奪った

僕は束の間の休息を得た










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