失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】

静かな決意






それが僕の心に芽生えたのは

何時だったろうか?

最初は完全に否定したそれ

だけど時間と多くの出来事が

少しづつ僕の理解と気持ちを

変えていった

変えるには充分な試練だったと思う

病院のベッドの中で次第に起きた

気持ちの収束

母が解放され

兄が癒され

そして僕は

僕は

ひとつの静かな確信に到った

以前なら完全に否定していたこと

それが今なぜか静かに

静かに告げていた






兄を解放する

僕から…






ひとつの宿業の終わりを

僕はこの目でまざまざと見た

僕の愛する二人が変容を遂げ

不思議だが僕の心の中も

にその変容を共有したようだった

ひとつの終わり

悲しみの終わり

贖罪の終わり





兄の静かな平穏は

悲しみに暮れていた僕に

深い心の平和をもたらした

この静寂と平和の中で僕の心は

ひとりでにそこに向かった





兄を解放する

今度は僕の番だ





僕の愛は

変わらない

それは変わらない

きっと兄もそうだ

それがいま僕にはわかる

僕らは非常事態を解かれた

生まれつきの非常事態を初めて

僕は兄の心と共に居る

僕らは離れることはない

一緒に居たい

それも変わらない

でも後先も考えず

僕はいま静かに思う

リセット

あとは…






僕はふとあの不良神父の教会を

思い出していた

あの人ならこう言うだろう

"神の御心のままに"





兄はまた

人の心の闇を癒す旅に

出るかも知れない

あの男のために

それは兄の決めることなんだ

誰にも止めることは出来ない

いつも通り策は

ない

そのかわり僕は兄に

あの人からの手紙を渡す

それで僕は仕事を終える

僕とあの男のことは

兄には…

言わないと固く心に秘めて






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