失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



「それでも…神は許さないだろうよ

俺には…幸せになる権利なんてある

のかな…」

兄の心の中で余りにも長い間かけて

固まってしまった罪の意識は

兄の感覚に入り込み

容易には離れそうにもなかった

僕は反論した

「僕は人間の裁きなんか信じない…

祈って本当に天罰が下るまで…僕は

それは信じない」

兄は大きくため息をついた

そして僕に真剣な目でこう言った

「わかった…でも今の俺は…お前の

幸せしか祈れない…それで良いか」

僕は頷いた

「うん…兄貴の幸せは僕が祈る」

僕たちは一緒に目を閉じた







ほとんど同時に僕たちは目を挙げた

長かったのか短かったのか

時間が感覚から抜け落ちていた

だがそれは互いに自分を捧げる様な

心願だった

兄は放心したように

椅子にもたれて祭壇を眺めていた

しばらく僕たちは無言で

黙祷のような祈りの後を過ごした




しばらく時間が経ち

僕はポケットを探った

あの人からの手紙を

兄に渡す

それは何か最後の使命というような

僕たちにとっても大事な

何かだった

いつもの通り僕は

それが何をもたらすかなど

わかってはいなかったけれど…

僕は手紙を取りだし兄に差し出した

兄は不思議そうな顔で

それを受け取った

「読んで」

僕はそう一言だけ言った

封筒から手紙を出し

読み始めた兄の顔がみるみる変わり

驚いた顔で僕を見つめた

「これって…」

「うん…あの人から…なくなった後

届いた…僕…驚いたよ」

兄は驚いた顔のまま

手紙を読み進めていった








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