失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




「彼…動画も写真も返すって…約束

してくれたんだ…なんで兄貴のとこ

に送ったのか…わからない…けど」

兄はそばに落ちていた茶封筒を

拾いあげた

「SDカード…二枚送られてきた…

一枚は俺が脅迫された時の…もう

一枚が…あれ…だったんだ」

兄は今までのことを

噛みしめるように目を閉じた

「きっと…実家に送ったら親父らに

見られる危険があるって思ったのか

も知れない…それとも…今までの

告白をしたかったのか…お前は俺に

絶対話さないって…彼は思ったのか

も知れないな…」

当たり前だ…少なくともさっきまで

話そうなんて思ってなかった

「兄貴は…自分を責めていつか自殺

してしまうかも…って…いつも不安

で不安でたまらないんだ…だからこ

んなこと…言えるわけ…ないよ」

「逆…だよ」

「えっ…?」

「違うよ…」

思わず僕は聞き返した

「違うって…」

「お前がいるから…死ねない…

死なない」

兄は僕の顔を見て微笑んだ

「お前が悲しまないために…それだ

けのために…俺は死なない」




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