失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】




誤解してた

なんて浅はかな僕

そんなふうに思ってたの?

僕のために

僕のためだけに

「決めてるんだ…いつも死にたくな

る…でも何があっても…お前のため

に死なない…だから…彼に支えて

もらった…お前と別れて…空しくて

死にそうだったから…」

兄は額を僕の肩に押し当てた

兄は…死なない

死なないん…だ

脱力するほどの安堵

愛されてる

僕は本当に愛されてる

一度止まっていた涙がまた

ぽろぽろとこぼれ落ちてきた

「彼にはそうしてもらう義務がある

彼の策略で俺もお前も苦しんだ…」

兄はいつもなら

滅多に言わない事を言った

「…でも…ほんとは死なないためで

もそんなこと…しちゃいけなかった

…かわりにお前を…こんな目にあわ

せてたなんて…」

兄は封筒を握り潰した

「またお前を傷つけた…お前が彼の

心を開いてくれたから…俺は今辛う

じて正気でいられるんだ…俺はこん

な時でさえ…お前の愛に救われてる

どうすれば…いい…俺がすることは

全てお前の苦しみになっていく」

兄の呼吸が苦しげに聞こえる

「一緒でも…離れても…苦しめる

答えが…出ないんだ…」

兄の両手が僕の肩から

滑り落ちていった

その時僕は感じた

あのことを打ち明けなければ

ならないと










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