失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】





公園までの道のりは遠かった

走るって…過酷…

僕は何度も立ち止まりそうになり

兄はそんな僕を見て笑っていた

「あーダメ…もーダメ!」

「せめて公園まで止まるな!」

言いながらも兄はかなりテンポを

落として伴走していてくれたはず

「先に…行けば…良い…のに」

息も絶え絶えに僕が言うと

「いや…一緒に行くよ…お前は

目を離したら歩くだろ?」

「なぜ…わかった…」

「はいはい!もう少し!」

堪え性の無さは兄にはバレてるし

噴き出す汗をパーカーの袖で

何度も拭いながらヨロヨロ走り続け

そうしてる間にも公園の森の

黒いシルエットがようやく現れ

次第にそれが近づいて来た






三分後僕は公園の舗装された道路に

仰向けに倒れていた

星を見ていた

つまり…ゴール

もう限界

「ホントはここ…折り返し地点なん

だけど…」

兄が傍らで膝に手をついて

呼吸を調えている

「今日は…コースを覚えるってこと

で…特別に休憩な」

「ええーっ…休みなし?」

「3キロで休み入れたら鍛練になら

ないから」

兄はそう言ってニッコリ笑った

「その笑顔は…反則だ」

かわいい…

なぜだろ?

今日の兄貴…なんかかわいい

変だ…と僕はなんとなく思った

「兄貴?」

「ん?」

「なんかあったの?」

「…」

だ…黙るの?そこで?

「ホントに?」

兄は黙ったまま身体を起こすと

僕に背を向けてしまった

マジで…?









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