失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



幾重にも絡まった鎖

棘だらけの茨の道

出口のわからない迷路



僕と兄はそんながんじがらめの

悪夢の中にいる

僕は兄の悪夢をなぞるように

悪夢と化した現実の中で

溺れかけている

年が明けても何も変わりはしない

祭りのような正月という現実が遠い

早く過ぎ去れ

心が世間と乖離していて

なんの共感も出来なくて





普段の兄は僕には変わりなく接する

僕はそれに戸惑うようになってる

兄が無理をして僕に合わせてるのか

という思いがいつも頭の中を廻り

心が罪で埋め尽くされていて

兄の本心を感じることが出来ない

この世に居場所を喪ったみたいに

孤独が僕を覆い始める

兄が欲しい

兄に抱かれたい

でもだめだ

だめなんだ

渇望と罪悪感の刃で切り刻まれて

身動き出来ない



その上に日増しに増大する

あの疑問

あいつ

兄の父親のこと

病気はどうなったのか

今どこにいるのか

そして兄は連絡を取っているのか



兄の携帯を盗み見たい衝動に苦しむ

絶対しちゃだめだ…なのに

兄が何をしているか気になって

いつしか兄を追ってる

まるで監視してるみたいだ

僕にはやめられない

見守ってるんじゃない

これじゃストーカーだ

僕は自分自身を怖れてる

兄を凌辱した日の自分が

また再び暴発するんじゃないかと

その自分が怖くてパニックを起こす

パニックが終わった後の虚脱の中で

最近僕は漠然と死を考えている

死は…安らかなのかな…と









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