失われた物語 −時の鍵− 《前編》【小説】



そしてもう僕は

夜兄に触れられない

あの夜…狂気に冒された兄の身体を

僕が抱き締めたことが

フラッシュバックを呼び起こした



吐き気を催すほどの行為を我慢して

意識を消したいくらいの凌辱に耐え

愛のない行為に

心を殺して身体だけを開いて

貪られるたびに人としての尊厳を

剥ぎ取られて踏みにじられる

それが兄の毎日だった



僕なら…

僕だけは受け入れてもらえる

そう思いたかった

でも僕も…

兄を凌辱したんだ…

あの日僕こそが…気違いみたいに…

傷ついた兄を無理矢理に




兄が帰ってきたあと

僕はそのことを意識から追い出し

兄のように無意識に記憶から

排除しようとしていた

だが…兄は僕の身体にさえ

激しいフラッシュバックを見せた

僕の罪はまだ消えない

消すことは出来ない

一番愛する人を傷つけた

その罪で僕は

死にすら値するのではないか

この心臓をえぐり出して

兄が癒されるのなら

その方が楽…なのかも






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