短編集*君と紡ぐ、冬
「うー、寒。早く帰ろう」
兄が急かす。
「分かってますぅ」
詩織は、手のひらの一片の葉を、眺める。
ちょっと名残惜しかったけれど、それを宙に放った。
イチョウの葉は、くるくると踊るように、元いた黄色の絨毯に戻っていく。
寂しいけれど、
いつまでも同じ場所に立ち止まっていることはできない。
変わり行くものに、
別れを告げる勇気と。
変わらないものを、
決して離さない強さ。
いつか、そのどちらも持ち合わせた大人になりたいな。
詩織は歩き出す。
でも、今はもう少しだけ。
まだ残っているぬくもりに、無性に甘えたくなって・・・。
「お腹すいたっ!お兄ちゃん、家まで競争!」
赤いマフラーをなびかせながら。
黄色の絨毯の上を、詩織は走り出した。
(アカやキイロのささやき・おわり)