キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
慌てて上がると、風がちょうど吹いてきた。

うわ、寒っ!!

季節は秋なので、さすがに水から上がれば寒い。

がくがくと震えていると、肩に何かがかかった。

「・・それ、使え」

「えっ いいんですか?」

京華は肩にかけられた緋色の羽織りに手を添えながら尋ねると、青年は首を縦に振った。

「ところで・・こんなとこで何をやってる」

「ちょ、ちょっと鍛練を。 まだまだなんですけどね」

「鍛練? 何のために」

普通、女が鍛練をやるなんて思わないだろう。

女は戦いには不利な面々が多いから。

「あの人の・・・背中を守りたいから、かな」

「ふむ ・・・あやつの背中をな」

青年は渋い顔をしながらそうつぶやくと、京華を見下ろした。

京華はきょとんとしながら青年を見る。

「あの・・何か?」

「いや・・別、にっ!!?」

急に明後日の方向に振り返った青年に驚いていると、小さく舌打ちが聞こえた。

「っくそ・・・!!!」

「あ、あの これ・・・」

踵を返し、森の奥へ進む彼に京華の声は届いていないようだった。

どうしよう・・・羽織り

京華は緋色のそれをギュッと掴みながら青年が入った森を眺めた。

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