キミがいなかったらこんなに恋い願うこともなかったよ。
椿の花が咲き誇る中に一つだけ、白い椿が静かに佇んでいる。

白い椿は淡く光ると、風がないにも関わらず、花びらがたくさん散る。

やがて花びらが人の形を成すと、それは“椿"となった。

椿は近くの椿の木に腰を預け、深く息を吐く。

「さすがに・・・痛いわねぇ」

梓に刺された胸の中心にそっと手を当てる。

傷は塞がっているものの、痛みは消えない。

焼けるような痛みが胸を貫いている。

冷や汗をかきながら深呼吸を繰り返していると、茂みが動く音がした。

「椿様っ!! どうなされたのですか?!」

椿の姿に驚いた槐が駆け寄ってくる。

そんなに心配しなくても・・・どうせ死ねないのに

自嘲しながらまた息を吐くと、椿は口を開いた。

「大丈夫 少し・・・痛いだけだから」

「まさかっ あいつに会われたのですか?!!」

槐が言うあいつは紛れもなく梓のことだろう。

これは嘘をついても突き通せまい。

「そうよ それで、挑発して・・・刺された」

「挑発って、なにゆえそのようなことを!!」

意味がわからないという顔で迫ってくる槐。

少しだけめんどくさい。

まぁ、心配してくれているので何も言わないが。
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