エクスタシー~極上のオトコ!?~
お腹の赤ちゃんがちょうど二十四週目に入った日、『Cafe Gallery Ando』がオープンした。


ギャラリーの半分はイタリアンモダンファーニチャーを配した高級感ただようバーになっている。


中庭にはプール。


その水面には赤いバラの花がぎっしりと浮かんでいる。


そこから数段、階段を下りたところが広々としたギャラリースペースだった。


シンプルな赤いサテンのドレスを着た美穂。


黒いシックなスーツ姿のエクスタシー。


ゆるやかなカーブを描くカウンターにもたれ、開店前の打ち合わせをしている二人。


まるで一枚の絵画を見ているようだった。


二人の姿にうっとりと見惚れていると
「理沙ちゃーん。ちょっと」
と、厨房の中から呼ばれた。


私を呼んだのは美穂が有名ホテルから引き抜いてきたシェフの和田さんだった。


料理人らしい繊細な手が白いウエッジウッドを照明にかざす。


「ほら、見て。うっすら指紋がついてるじゃん」


「す、すみません。すぐに洗い直します」


和田さんは料理の味見をさせてくれたり、美味しいマカナイ料理を作ってくれたりしてとても優しいが、仕事には厳しい。


彼は洗い場を任されている私を一人前の料理人に育てるつもりらしい。


けど……。


私が目指しているものはシェフじゃない。



私はいつか、エクスタシーと一緒にギャラリーに立てる日を夢見ている。


美穂には
「出産後、二十キロ痩せられたらね」
と条件をつけられている。


が、痩せるどころか、妊娠して更に五キロ増加した。


今はこうして、厨房の洗い場から二人の姿を盗み見て羨むしかない。






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