透明な翼
――次の日。

その日は朝から小雨が降っていたが、僕が出勤する頃には本降りになっていた。

どこからともなく聞こえてくる雷鳴が耳障りな夜。

こりゃ終わったらさっさと帰ったほうがいいかな。

店の窓から外を見て思った。

「幾斗ぉ……ヒマだな?」

「……あぁ」

こんな天気だ。そりゃ客もこねぇよなぁ。

開店からすでに二時間が経過しているが、まだ三人しか来店していない。

そのうちの一人は今、翠が相手をしている。

そいつが帰れば完全に休憩時間状態だ。

「はぁ~……」

今日何度目かの溜め息。

僕と貴史はカウンターの客用の丸椅子に座ってたばこを吹かしていた。

僕のとなりで貴史は子供のようにくるくると椅子を回している。

僕はふと腕時計を見た。

翠に指名が入ってから約一時間半……ちょっと遅くねぇか?

あの客は受付で、一時間のコースだと言っていた。

多少の遅れは大目に見るのだが、さすがに三十分オーバーはまずい。

「貴史、翠の客引っぱたいてこい」

そう言うと、貴史も時計を見て

「そういやそうだな」

と頷いて席を立った。

そのとき―――…

「イヤァアアアア!!!!!」

そんな女の叫び声が聞こえた。

貴史は驚いて、咥えていたたばこを落とした。

これは……翠の声だ……!

僕は気付くと走り出していた。

「……ッ翠!」

嫌な予感がする。

ただ二階に上がるだけの階段が、永遠に続く物のように感じた。

僕は無我夢中で走った。

そして――…

バンッッ

「翠!!」
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