透明な翼
「えへへ……急に泣いたりしてごめんね」

「いいよ」

「ここ……次は夕日を見に来ようね」

「そうだな」

僕等は車に戻った。

「翠、他に行きたいとこないの?」

「うち」

「……は?」

「だからぁ、おうち帰るの!」

いやいや! 誕生日の祝いがこれだけって少ないだろ!

「欲しい物あるなら買ってやるけど……」

「もう十分嬉しかったもん。あとは二人で家でゆっくり過ごしたいの。二人とも家にいるなんて貴重じゃない」

まぁ翠がいいって言うならそれでもいいか。

「分かった。じゃあ帰るか」




それからは未だかつて無いほどゆったりと過ごした。

今まであまり話せなかった分、沢山しゃべって、笑って。

こんなに落ち着いた気持ちになるのは幼い頃振りだった。

翠は僕に懐かしい気持ちを思い出させてくれる。

忘れかけていた大切な気持ちを。

僕の中にこんな感情があったことを、自分自身も気づいてなかったのに。

君の前だと全て自然に出てくる。

以前は作り笑顔ばかり浮かべていた……でも今は本当の自分でいられる。

僕は感情が欠落していたのではなく、ただ忘れていただけだったんだ。

それを知ることが出来て嬉しかった。


その日の夜――

僕の手作りの料理とケーキを食べ終えた頃。

「あぁー! 美味しかったぁ~」

「翠、ちょっとこっち来てみ?」

僕は翠に手招きをした。

なにー? と言いながらちょこちょこと寄って来る。

僕は小さな箱を翠の頭に置いた。

ペシッ

「っ何?」

「何でしょー」

頭上の箱を取ってまじまじと見つめた。
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