暖簾 のれん
(へぇ、イケメンじゃん♪)

「あんた、日本人?」男はキラースマイルで聞いてきた。

「そうよ。名前はミサコ。」

「俺はジェフリー。この店のオーナーの一人だ。よろしく。」

私たちは握手を交わした。

それを邪魔するかのようにペイレイが横から手を出した。
「ペイレイよ。姉が乙姫のママをやってるの。」

「あぁ、乙姫の・・・じゃぁチェンレイの?」

「姉を知っているの?」

「よく来るよ。同伴で待ち合わせ場所によく使ってくれる。どこか似てるね。」

(こういうのをレディー・キラーって言うのね・・・)

そういえば結婚して何年もこんな場所に来た事なかった。
そして当然こんなイケメンに声をかけてもらう事も。

あり得ないけど、例えばこのままこのジェフリーとカンケイが出来ても
もう誰も何も私をとがめられない。

私はバツイチ。でも独身で自由に戻った1人の女なのだ。

「観光で来ているの?」興味深々な顔でジェフリーは聞いてきた。

「ううん、仕事を探しているのよ。」

「仕事を?」

「そう。何も計画せずに日本を飛び出してきたから退屈なの。」

ジェフリーは少し考えた顔をして、

「携帯持ってる?」と聞いた。

「持ってるよ。」

「番号を教えて。明日、一緒にランチしない?」

(マジ??)

錆ついて動かなくなった胸の中の鐘が激しく金属音を立てている。

(日本人に興味があるだけよ・・・。営業用のお決まりの文句よ。)

そう言い聞かせても、心は正直。
私の胸はドキドキしていた。

平常を装って答えた。

「いいよ。暇だから。」

ペイレイがチェッとつまらない顔をした。
< 26 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop