スキトキメイテキス【BL】
 
「そこに座って待ってろ」


 ──……っ!!


 僕の言葉を完全に無視して踵を返したアイツは、乾いた足音を響かせて工房の方へと姿を消した。

 休憩室も兼ねているこの部屋には、木製のテーブルセットが置いてある。

 アイツの言葉なんか無視して帰ってしまおうかとも思ったけど。

 わざわざ「ケーキを食べていけ」とか言うなんて、他にも何か理由があるような気がして……。

 折角着たコートを脱いで、僕は大人しく椅子に座ることにした。

 何気なく見た時計は22時を回っていて、忙しいクリスマスもあと2時間ほどで終わりを告げる。

 そう思うとクリスマスも呆気なく感じられてしまう。

 今年も、特に何もなかったな、って。


 程無くして、大きなトレーを持った俺様水野が戻ってきた。


「クリスマスケーキ、余分に作っておいたんですか?」


 限定ケーキは完売してしまい、スタッフでも予約をしておかなければ買えない程の人気振り。

 予約をしなかった僕が妹と母に恨まれたのは言うまでもない。

 けど、目の前に差し出された白い皿の上には──


「──……あれ?」


 クリスマスケーキではなく、チョコケーキが生クリームと一緒に乗せられていた。

 それは店頭では見掛けたことの無いケーキ。


 新作?

 いや、新作を作っているような暇なんてこれっぽちっちも無かった筈だ。
 
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